キリン電波製造所

妄想小話を一日一つ書いていました。全てが全て虚構のお話です。

来年のこと

炬燵で年越しそばを食べる十一時半。
私はナルトをどのタイミングで食べるべきかを必死で考えていたし、あなたはテレビに半分意識を持って行かれていた。
「早いもので今年も終わります」
それは一年を振り返る映像を流していたからだろう。
もうそこら中で聞いた台詞に、私は若干飽き飽きとしていた。
振り返ってどうするのだろう。そんなの良いこともあれば嫌な事もあるし、反省すべき点はたくさんあるけれどそれは日々の中で反省をするべきことで、年末にまとめてやったってどうせ取りこぼしは出てくるのだ。
けれど私にとってはナルトのことが重要なので
「そうですね」
と、軽く受け流す。
ナルトはシックな色合いの多いそばの中で数少ない華のある具材だ。
だからこれを食べてしまうと一気にどんぶりのなかの色合いが寂しくなってしまう。
かといって最後の最後まで残しておくものでもないし、そばの残量との兼ね合いが非常に難しい。
「来年の抱負は?」
「来年のことを言うと鬼に笑われますよ」
来年のことを考える時間すら惜しい。
「そうなると我々は明日の話もできませんね」
「我々に明日のことなど考える必要はありません。ただ淡々と、ただ粛々と、今目の前にある日常に向き合えばそれでいいのです」
他のことを考えながら喋ると、どうしてこうも全く訳の分からない事をまくし立ててしまうのだろう。
ずずずとそばをすする。
「そば、好きですか」
「はい。うどんよりは」
「ならば今度そばを食べに行きましょう。おいしいところがあるのです」
「それは来年の話ですか」
あなたは押し黙った。
鬼に笑われることが一体どれほど恐ろしいことなのだろうか。
あんな炒り豆ごときで退治されるような種族だというのに。
「では粛々とそばをすすりましょう」
言い過ぎだったかと後悔はしたけれど、そこまで機嫌を損ねたようではない。
いつも通りの表情でテレビを眺めている。
ほんの少し胸をなで下ろし、然るべきタイミングにナルトとを食す。


遠くでは除夜の鐘が鳴っていた。

一つ二つと鳴り響く厳かなカウントダウン。
百八つ目の鐘が鳴ったとき、彼はこう言った。