キリン電波製造所

妄想小話を一日一つ書いていました。全てが全て虚構のお話です。

今年のこと

「初詣に行きましょう」
「何をいきなり」
「来年のことを言うと鬼に笑われます。なので今年のことは今年言いました」
「それは朝になってからでも良いのでは」
「今です」
先ほどの罪悪感もあり無事ナルトを最善のタイミングで食せた満足感も手伝って、そのわがままに付き合う形になった。

「寒いですね」
「寒いですよ何を考えているんです」
太陽の生まれていない新年は、凍てつく風が吹き荒れている。
過ぎ去った年の朽ち果てた残骸は脆く崩れ去り、未だ産声をあげぬ新年を虚ろに眺めている事だろう。

「また変な事を考えていますね」
「変な事とは失礼な」
マフラーを口元まで覆っていても、あなたの表情は見て取れる。
かじかむ手に息を吹きかけ、暖を取る。

そこは地元にある小さな神社だった。
大きな神社もあったけれど、寒い上に人混みに揉まれなければならない苦行までする気は到底起きない。

五円玉を放り、鐘を鳴らし、二礼二拍手。

「来年こそは六億円が当たりますように」
私は声を大にして願い事を言い、礼をする。
「こういうのは……声に出してはいけないものなのでは」
「言霊信仰が重要なのではないのですか」
「それとこれとは……いや、どうなのでしょう」
神さまが読心術を使えるとは限らない。
言わなくたって伝わると、そういう思い込みが人間関係をこじらせる要因なのだ。
それはきっと神であっても変わらないはず。

あなたは私のトンデモ理論に騙されたらしく、大きく息を吸って願い事を口にした。
「今年も仲良く、ずっといられますように」
勢いよく礼をして、あなたは早足で階段を駆け下りた。
恥ずかしいのならば言わなければいいのに。

私も急いで階段を下り、境内の外で待つあの人の元へと駆けていった。
温かい帰り道だった。